大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和43年(行ウ)9号 判決

原告 中央タクシー株式会社

被告 大分県地方労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(一)  大分地方労働委員会昭和四二年(不)第六号事件について、被告が昭和四三年一〇月二日付でした別紙命令書(以下「本件命令書」という。)記載の命令のうち、主文第一項および第二項を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨

第二、原告の主張する請求原因

一、訴外中央タクシー労働組合(以下「組合」という。)は、原告について不当労働行為に該当する行為があつたとして昭和四二年七月三一日被告に対して救済の申立をし(大分地労委昭和四二年(不)第六号事件)、被告は、昭和四三年一〇月二日本件命令書主文のとおりの命令を発し、その命令書は同月七日原告に送達された。

二、右命令の理由は、本件命令書の「理由」に記載のとおりである。

三、しかしながら、右命令には、事実の認定ならびに法律上の判断を誤つた違法がある。

(一)  被告が認定した事実に対する認否

1 当事者の項は認める。

2 組合結成後の経過の項中、

(1)は知らない。

(2)のうち、昭和四一年七月六日、原告が一力政雄および佐藤吉彦に解雇通知をしたことは認めるが、その理由は勤務成績が不良であつたためである。また、同日付で組合員全員に解雇通知をしたことは認めるが、その理由は、同日右全員が就業規則に違反して無届で職場放棄したためである。

その余の事実は知らない。

(3)のうち、社長が組合加入の有無を質問し組合員に対しては就業を拒否したとの点および和解の席上組合を潰してしまう旨発言したとの点はいずれも否認する。

その余の事実は認める。

(4)は、就業拒否の理由を除き認める。その理由は、その三名が前日の解雇撤回要求時に会社をやめる旨意思表示したからである。

(5)は認める。

(6)のうち、米原常務が一力に解雇通知をし、乗務拒否をした点は認めるが、それは、一力の成績不良、料金着服行為を理由とするものである。また、右一力の解雇を撤回したことは認める。

その余の事実は否認する。

(7)ないし(15)は認める。

(16)も認める。ただし、二台の無線車が使えなかつたのは、たまたま故障を起こしたにすぎない。

(17)も認める。

3 手当についての項中、

(1)は、支給の始期の点を除き認める。それは昭和四一年一一月からである。

(2)は知らない。

(3)(4)は認める。

4 組合に加入しない約束についての項は認める。

5 担当車の割当についての項は否認する。

(二)  被告の判断に対する反論

1 被告は、原告において牧和間ら四名に支給した月額二、〇〇〇円の手当(以下「本件手当」という。)が、組合に加入しなかつた右四名と組合員とを、差別する意図のもとに支給されたものである旨判断する。

しかし、本件手当の支給は、正当な根拠を有するものであつて不当労働行為ではない。

すなわち、組合員の全部ないし一部は、別表(一)記載のように、いずれも就業規則に違反して就業時間中原告に無断で職場離脱し、原告側に多大の損害を与えたにもかかわらず、原告は右職場離脱については賃金カツトをしていない。これに対し、本件手当を支給された四名は、右職場離脱による労働力の不足を補充するため、勤務時間経過後も職場に残留し職務に精励した。そこで、原告は、その功績に対し各自金二万円宛位の報償金を支給することとし、昭和四一年一一月から昭和四二年六月まで毎月二、〇〇〇円宛支給したものである。組合員中、右職場離脱をしなかつた相馬勝彦ほか四名に対しては、右四名ほどの功績がなかつたので本件手当を支給しなかつた。

要するに、右差別取扱は、組合員らの右職場離脱が就業規則に違反したものであることからなされたのであつて、組合員であることまたは組合活動をしたことの故をもつてなされたのではない。したがつて、右差別取扱は、労働組合法第七条第一号、第三号のいずれにも該当しないので、本件命令は取消さるべきである。

2 被告は、原告においてなした無線車と非無線車および新旧車両の割当(以下「担当車等の割当」という。)が、組合員と第二組合員との間で公平を欠いており、これが両者を差別する取扱である旨判断する。

しかし、原告は、従前から割当基準に基づいて担当車等を割当てていたのであつて、右のような不当労働行為はない。

もつとも、原告は、昭和四一年一〇月に行なわれた組合側のストライキ以後、長期の紛争、無届職場離脱に対処して、右紛争期間中売上げを確保するため、担当車等の割当の変更を行なつたが、右紛争が解決した時点で公正な割当に戻した(同年一二月一九日における和解)。

そして、原告は、昭和四三年六月従前からの水揚高による割当基準を修正し、(1)新車を担当した場合同一人がその車を三年間使用する、(2)以後代替の度に同一人に新車を担当させる、(3)特に成績不良の者について予備車と交替させる、旨の担当車等の割当基準を定めた。ちなみに、同年九月末日当時の担当車等の割当は、別表(二)のとおりであつて組合員とその他の者との間に何らの差別もない。さらに、原告は、同月初め非無線車全部の台数に応ずる無線機を発注し、同年一二月二四日全車両に無線機を取付けた。

したがつて、遅くとも被告が本件命令を発した時点では組合側に被救済利益はないから、被告はこの点に関する組合の申立を却下すべきところ、これを認容した本件命令は、違法な命令として取消を免れない。

第三、被告の答弁

一、原告の請求原因一および二の各事実は認める。

二、同三について

(一)  本件命令書の「理由」において、被告がなした事実認定および判断は正当である。右認定に反する原告の主張事実、および被告の本件命令に事実誤認ならびに法律上の判断を誤つた違法があるとの主張は争う。

(二)  なお、次の二点につき付加して主張する。

1 (一)の2の(2)について

原告は、組合員全員を解雇した理由として、右全員の就業規則に違反した無届職場放棄を主張する。

しかし、その当時就業規則は作成されていなかつた。このことは、昭和四三年九月二四日、原告およびその代表取締役たる有松崇が労働基準法違反で罰金刑を受けていることからも明らかである。

2 (二)の1について

原告は、組合員の職場離脱について賃金カツトをしていない旨主張するが、タクシー運転手たる組合員の賃金は、日給制と月間ノルマ制がとられているため、就労しなければ直ちに賃金が低落するのであるから、一般事務員と同様の賃金カツトは考えられない。

また、原告は、組合員が職場離脱をした際、牧和間ら四名が職務に精励した補償金として、各自に金二万円を支給するよう決定した旨主張するが、タクシー運転手の日給は、深夜勤務、超過勤務を含めて一日平均六〇〇円程度であるから、昭和四一年七月六日だけ不眠不休で働いたとしても、所定の給料のほかに合計八万円(四名分)の報償金を支給することは首肯できない。

要するに、本件手当の支給は客観的妥当性を欠くものである。

第四、証拠〈省略〉

理由

第一、訴外組合は、原告について不当労働行為に該当する行為があつたとして、昭和四二年七月三一日被告に対して救済の申立をしたところ、被告は、昭和四三年一〇月二日本件命令を発し、その命令書は、同月七日原告に送達されたこと、その命令の理由が本件命令書記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

第二、そこで、被告の事実認定ならびに法律上の判断の当否について検討する。

一、被告は、原告の行なつた本件手当の支給および担当車等の割当が不当労働行為にあたる旨判断しているところ、まず、右紛争に至る労使関係の経過について検討することとする。

(一)  原告は、乗用旅客運送業を営む会社であり、その従業員が約六〇名であること、組合は、原告の従業員をもつて組織する労働組合であつて、昭和四一年七月六日結成され、大分県労働組合評議会(以下「県労評」という。)および大分県中小企業労働組合連合会に加盟しており、本件救済命令の申立をした昭和四二年七月三一日当時その組合員が一九名であつたことは当事者間に争いがない。

(二)  組合結成後の労使関係の経過

1 成立に争いない乙第三号証によれば、昭和四一年七月五日夕刻から、訴外一力政雄らが組合結成のためそれに賛同する原告会社の従業員の署名を集め、その数が三四名に達した事実が認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

2 同月六日、原告が一力政雄、佐藤吉彦に対し解雇通知をしたことは、当事者間に争いがない。そして、前記乙第三号証によれば、その日右一力らの解雇を知つた右署名者全員およびその余の従業員一〇名は、原告に早退、欠勤の届を提出したうえ、同日午後組合結成大会を開き、委員長に一力政雄、副委員長に佐藤昇を、書記長に林涓次郎をそれぞれ選出し、ひきつづき第一回臨時大会を開催して組合規約等を作成した事実を認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。しかして、原告が同日付で右結成大会に参加した従業員全員を解雇したことは、当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右解雇の理由として、右一力および佐藤については勤務成績の不良、組合員全員については就業規則違反(無届による職場放棄)をそれぞれ主張する。

なるほど、原告代表者有松崇本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第五号証および右本人尋問の結果によれば、右一力の水揚成績が不良であつた事実を認めることができるけれども、それが同人を解雇しなければならない程のものであつたかどうかは不明であり、右佐藤の勤務成績が不良であつた事実は本件全証拠によつてこれを認めるに足りない。また、右結成大会に参加した従業員が原告に対し早退または欠勤の届出をなしたことは前示認定のとおりである。

かえつて、前記乙第三号証および証人一力政雄の証言によると、原告会社において昭和三五年九月一日組合が結成されたが、使用者側の組織攻撃により二週間位で壊滅したこと、その後も組合結成の動きはあつたが、その主謀者は解雇されたこと、原告の右一力に対する解雇通知は、前記署名を集めた日の翌朝午前八時ごろに突然口頭でなされたことなどの各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はないところ、右各事実と、前記解雇が右一力をはじめとする右結成大会に参加した従業員全員という大量解雇であること、その解雇について特段の理由がないことおよび後記3の事実ならびにその後の労使関係をあわせ考えると、前記解雇は、原告において組合結成の動きを弾圧する意図のもとになされたものといわざるをえない。

3 前記乙第三号証によれば、同月七日、原告会社の社長有松岩彦は、出勤した従業員を一人づつ社長室に呼び入れ、組合加入の有無を問い質したうえ、加入者に対しては就労を拒否した事実を認めることができ、右認定に抵触する原告代表者有松崇の供述は信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

同日、組合は右解雇の撤回を要求して抗議集会を開き、その後県労評も加つて原告と交渉の結果、同夜半和解が成立し全員の解雇が撤回されたことは当事者間に争いがない。

前記乙第三号証によれば、右和解の席上、社長が「組合を潰してしまう」旨の発言をしたことが認められ、右認定に反する原告代表者有松崇の供述は信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

4 同月八日、原告が、組合の副委員長佐藤昇、書記長林涓次郎および高田重男の三名に対し就労拒否をなし、右就労拒否は翌九日被告の仲介によつて解かれ、右三名が乗務することになつた事実は当事者間に争いがなく、また、前記乙第三号証および原告代表者有松崇の本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六号証によれば、右就労の拒否は、前日の解雇撤回要求に際しての暴言を理由になされたことが認められ、右認定に抵触する原告代表者有松崇の供述は信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

5 同月一七日、組合は原告に対し夏期手当および賃金改定要求を行ない、その後十数回にわたる団体交渉を重ねた結果、同年九月六日賃金協定が成立したことは当事者間に争いがない。

6 同日前記協定調印後、原告会社の米原常務が一力政雄に対して解雇通告をなし、翌七日から右一力の乗務を拒否したことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右一力の成績不良、料金着服行為を理由として右解雇をなした旨主張し、原告代表者有松崇はこれに副う供述をするが、右供述は後掲各証拠および弁論の全趣旨に照らしてたやすく信用できない。

かえつて、前記乙第三号証および証人一力政雄の証言によれば、前記協定調印直後、前記米原常務は、右一力に対し、「組合の問題も終つたし、賃金についても解決したのだから辞めてくれ」「辞めなければ解雇する」旨申し向けたことが認められ(この認定に反する証拠はない。)右事実と、右一力が組合の委員長の地位にあつたこと、右解雇の前後の経緯等を勘案すると、右解雇は、原告において右一力の組合活動を封鎖する意図のもとになされたものと認められる。

7 前記乙第三号証によれば、組合は、直ちに右一力の解雇撤回を原告に申入れ、県労評の支援を受けて団体交渉を行なつたが、原告から右解雇の撤回を拒否されたので、同月一〇日、スト権を集約してその旨原告に通告したところ、原告は右解雇を撤回した事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない(原告が同日右解雇を撤回したことは当事者間に争いがない。)。

8 以下の事実は、当事者間に争いがない。

(イ) 同年八月一二日、原告の職制や非組合員一七、八名を構成員とする親和会が発足したが、組合は、右親和会が第二組合に発展することを懸念し、組織防衛について討議の結果、同年九月一五日ユニオンシヨツプ協定を含む労働協約締結を原告に要求した。

(ロ) その間同月一一日、中央タクシー株式会社労働組合(以下「第二組合」という。)が結成され、委員長に牧和間、副委員長に三重野博、書記長に釘宮忠雄がそれぞれ選任された。

(ハ) 原告、組合間において、労働協約締結につき数回の団体交渉が行われたが、ユニオンシヨツプ協定をめぐつて対立し全く歩み寄りができなかつた。

そこで、同年一〇月二一日、組合は二四時間ストライキを決行した。これに対し、原告は、同月二二日、組合員全員の乗務を禁止するとともに、組合に対しロツクアウトを通告した。

(ニ) さらに、組合は、同月二三日から第二次四八時間ストライキに突入したが、同月二五日以降はストライキを回避し、原告に対して毎日就労の申し入れを行つたところ、原告はこれを拒否してロツクアウトを続けた。

(ホ) 同月二七日、組合は、大分労働基準監督署に対して原告に労働基準法違反がある旨申告し、さらに、同年一二月一日、大分地方裁判所に対してロツクアウト排除および賃金支払いの仮処分申請を行なつた。

(ヘ) 同月一九日、大分地方裁判所において、原告、組合間に、組合三役を除く組合員二七名につき、〈1〉同月二〇日から就労、〈2〉ロツクアウト中の賃金遡及払い、〈3〉無線車五台、非無線車一二台の割当などの条項を含む和解が成立した。

(ト) しかるに、同月二〇日、組合員二七名が就労しようとしたところ、原告は争議中に自動車のドアーを蹴つたことを理由に池辺俊彰の就労を拒否したが、その後大分地方裁判所の斡旋により、同人は同月三一日から就労した。

また、組合員に割当てた無線車五台のうち二台の無線機は使えないものであつた。なお、原告は、右二台の無線機が使用できなかつたのは、たまたま故障を起こしたにすぎない旨主張するけれども、これに符合する原告代表者有松崇の供述は採用できないし、ほかに右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(チ) 昭和四二年三月二四日、被告の斡旋により、原告は組合三役に対する就労拒否を解き、ここに争議は全面的に解決した。

二、本件手当てについて

(一)  原告が、第二組合員である牧和間、釘宮忠雄、田中健夫、泥谷英司の四名に対し、正規に計算された給料のほかに月額二、〇〇〇円を支給していたことについては当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第三ないし同第五号証によれば、右支給は、遅くとも昭和四一年一〇月から昭和四二年六月までなされた事実を認めることができ、右認定に反する原告代表者有松崇の供述は採用できず、ほかに右認定をくつがえすに足りる証拠はない(右支給が同年七月以降打切られたことは、当事者間に争いがない。)。

(二)  そこで、本件手当の支給が不当労働行為にあたるかどうかについて判断する。

1 原告が前記四名に対して本件手当を支給した理由として主張するところは、要するに、組合員の全部ないし一部が別表(一)記載のように無断で職場を離脱した際、右四名が、時間外勤務に精励した功績に対するものであつて、組合員との右差別取扱は、もつぱら組合員の無断職場離脱という就業規則違反によるものである、というにある。

2 原告代表者有松崇本人尋問の結果および弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二号証の一ないし一〇によると、組合員の全部ないし一部が職場を離脱したこと、その時間中前記四名が通常の勤務に服し稼働したこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、同号証によれば、右職場離脱は委員会または職場集会などの正当な組合活動のためであり、しかも、あらかじめ原告に対して届出をなしたうえであることを認めることができる。

したがつて、原告代表者有松崇が供述するように、右届出に対する原告の許可がなかつたとしても、右組合員らの職場離脱は就業規則に違反しない。

また、前記原告代表者本人は、本件手当は前記四名らに対する時間外の勤務手当をふくむと供述するけれども、同人らが時間外勤務に服した旨の供述は措信しがたく、また前記手当の支給形態に照らし、これを超過勤務手当と認めることはできない。

してみれば、本件手当は、原告の主張するような趣旨のものではなく、一種、特別の手当であると解せざるをえない。

3 そこで、本件手当の支給をめぐるその他の問題についてさらに検討する。

(1) 前記四名が組合の前記結成大会に参加せず当初から全く組合に加入していないこと、全従業員中組合に加入しなかつたのは役付者を除き前記四名だけであること、前記四名のうち牧と釘宮は第二組合の役員であつたことの各事実は当事者間に争いがない。

(2) 前記乙第三号証および証人一力政雄の証言によれば、昭和四二年六月に前記四名の給料袋に記載されていた役員手当なるものが発覚したため、同年七月上旬第二組合の臨時大会で問題となり、その結果、牧和間らの執行部が退陣するとともに、同月中に六名が第二組合を脱退したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) その結果、同年七月以降右手当の支給が打ち切られたことは当事者間に争いがない。

(4) すでに、第二の(二)1ないし8において認定、摘示した原告との労使関係の経過、ことに、組合結成に参加した全組合員の解雇、組合結成の中心的人物たる前記一力に対する二度にわたる解雇通告、組合員あるいは組合役員に対する長期間の乗務拒否、担当車割当てについての差別取扱(ただし、その詳細は後記認定のとおりである)、原告代表者の和解の席上における「組合を潰してしまう」旨の発言、などの諸事実よりみれば、原告は、組合の結成以来これを著しく嫌悪し、弾圧しようとする意図を有していたことを推認することができる。

4 以上(1)ないし(4)記載の事実を合せ考えると、本件手当の支給は、もつぱら前記四名が組合に加入せず、組合活動をしなかつたことに対する報償であるといわざるをえず、これはとりもなおさず、原告が、組合を嫌悪するあまり、報償金の名に藉口して組合員を不利益に取扱い、第二組合を育成、擁護し、それによつて組合の活動をけん制し、組織の弱体化を意図してなした支配介入行為であると認めるのが相当である。

よつて、被告が右と同旨の判断にもとづき右不利益取扱行為を是正するために発した本件救済命令は正当としてこれを是認すべきである。

三、担当車等の割当について

(一)  前記乙第三、第四号証および証人一力政雄の証言を総合すると、もと担当車等の割当について水揚高によるなど一応の基準があつたこと、しかし、組合結成後においては、まず、新車の割当はほとんど第二組合員に集中し、組合員の担当車が廃車されても新車は割当てられない状態であつたこと、無線車の割当もほとんど第二組合員に集中し、昭和四三年九月三〇日現在においては、第二組合員全員に無線車が割当てられ、組合員および非組合員中に無線車を割当てられていない者が相当数あること(同日現在の割当状況は原告の自認するところである。)、さらに、担当車についても第二組合員全員に割当てられ、組合員の相当数は予備車であつたことの各事実を認めることができ、右認定に抵触する原告代表者有松崇の供述は前掲各証拠に照らしたやすく信用できず、ほかに右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(二)  そこで、右担当車等の割当が不当労働行為にあたるかどうかについて判断する。

1 原告は、担当車等の割当について従前から具体的基準をもうけていた旨主張し、右原告代表者本人もその旨供述するが、組合員と第二組合員の担当車等の割当に関する前記差別取扱が右基準に基づく公正なものである点については、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。また、原告は、前記紛争期間中一時的に担当車等の割当を変更した旨主張するが、労使間に前記和解が成立した後も、無線車の割当につきその約束が守られなかつたことは、前示認定のとおりである。なお、原告は、昭和四三年一二月二四日全車両に無線機を取付けたのであるから、組合に被救済利益はない旨主張するが、救済命令の当否についての判断は、それが発せられた時点を基準にすべきものと解するのが相当であるところ、本件命令が発せられた日は同年一〇月二日であること前示のとおりであるから、原告の右主張はそれ自体失当といわねばならない。

2 かえつて、前記乙第三号証によれば、(1)新旧車両を比較すれば、その故障の度合が異なり、ひいては作業能率に影響すること、(2)無線車と非無線車とでは作業能率、水揚げ高に隔差が生じること、(3)担当車と予備車との間においても同様であること、(4)給料の計算が基本給と水揚げとの二本建であるため、担当車等の割当いかんが直ちに運転手の収入に関係してくること、(5)昭和四二年七月第二組合を脱退した者が、担当車等の割当について不利な扱いを受けるのを恐れて組合への加入を躊躇していたこと、(6)前示のとおり、原告において組合活動を弾圧しようとする意図があつたこと、などの諸事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして、右諸事実を考えあわせると、原告が担当車等の割当についてなした取扱は、組合員と第二組合員との差別取扱にあたるものであると同時に、組合に対する支配介入として不当労働行為を構成すると解すべきであり、この点に関する原告の主張もまた採用の限りではない。

3 してみると、被告のなした同旨の判断にもとづく本件救済命令は正当として是認すべきである。

第三、むすび

以上説示したとおり、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良 古城敏雄 吉田哲朗)

(別紙)

命令書

(大分地労委昭和四二年(不)第六号 昭和四三年一〇月二日 命令)

申立人 中央タクシー労働組合

被申立人 中央タクシー株式会社

主文

一、被申立人は申立人組合員(別表記載の一四名)に対し各人に一八、〇〇〇円を支払わねばならない。

二、被申立人は担当車の割当について、直ちに公正妥当な基準を設けて公平に運用し、申立人組合員を差別扱いしてはならない。

三、その余の申立は棄却する。

理由

第一、認定した事実

一、当事者

(1) 申立人中央タクシー労働組合(以下「組合」という)は、中央タクシー株式会社の従業員をもつて組織する労働組合であつて昭和四一年七月六日結成され大分県労働組合評議会(以下「県労評」という)及び大分県中小企業労働組合連合会に加盟しており本件申立当時の組合員は一九名であつた。

(2) 被申立人中央タクシー株式会社(以下「会社」という)は肩書地に本社を置き乗用旅客運送業を営なむ会社であり従業員は約六〇名である。

二、組合結成後の経過

(1) 昭和四一年七月五日夕刻から一力政雄らが組合結成の署名を集めた。

(2) 同月六日この動きを知つた会社は一力政雄、佐藤吉彦に口頭で解雇を通告した。そこで既に署名した従業員全員が会社に早退、欠勤の届を提出し、同日午後組合結成大会を開催し委員長に一力政雄、副委員長に佐藤昇、書記長に林涓次郎を選出した。会社は同日付で早退、欠勤届を提出して結成大会に参加した者全員を解雇した。

(3) 同月七日従業員が出勤すると社長は一人づつ逐次社長室に呼んで組合に加入したか否かを聞き組合員に対しては就業を拒否した。同日組合は解雇撤回を要求して大会を開いた。その後県労評も加つて会社と交渉の結果同夜半和解が成立し全員の解雇が撤回された。しかしその席上において社長は「組合を潰してしまうんだ」と言つた。

(4) 同月八日会社は副委員長佐藤昇、書記長林涓次郎及び高田重男の三名に対し七日の解雇撤回要求時の暴言を理由に乗務を拒否した。これについては翌九日当委員会の仲介で解決し三名は乗務した。

(5) 同月一七日組合は会社に対し夏期手当及び賃金改訂要求を行つた。そしてその後十数回の団体交渉を行なつた結果九月六日に賃金協定が成立した。

(6) 九月六日前記協定の調印後、米原常務は一力政雄委員長を呼び「もう役割を果たしたのだから辞めて呉れ」「辞めなければ解雇する」と通告し翌日から一力政雄の乗務を拒否した。組合は解雇撤回を会社に申入れ県労評とともに団体交渉を行なつたが会社は一力政雄の解雇を固執した。そこで組合は九月一〇日スト権を集約して会社に通告したところ同日会社は一力政雄の解雇を撤回した。

(7) 八月一二日会社の職制や非組合員一七、八名から成る親和会が発足した。組合はこの親和会が第二組合へ発展することを懸念し、組織防衛について討議の結果九月一五日ユニオンシヨツプ協定を含む労働協約締結を会社に要求した。

(8) 九月一一日第二組合が結成された。委員長牧和間、副委員長三重野博、書記長釘宮忠雄である。

(9) 労働協約締結について数回の団体交渉が行われたがユニオンシヨツプ協定をめぐつて対立し全く歩み寄りができなかつた。

(10) 一〇月二一日組合は二四時間ストライキを行なつた。

(11) 同月二二日会社は組合員全員の乗務を禁止するとともに組合に対しロツクアウトを通告した。

(12) 組合は同月二三日から四八時間ストライキを行なつた。尚同日から同月二八日まで第二一回国民体育大会が本県で行われた。

(13) 同月二五日以降組合はストライキは行わず毎日就労の申し入れを行なつたが会社はこれを拒否しロツクアウトを続けた。

(14) 同月二七日組合は大分労働基準監督署に労働基準法違反の申告、さらに一二月一日大分地方裁判所にロツクアウト排除及び賃金支払いの仮処分申請を行なつた。

(15) 同年一二月一九日大分地方裁判所において組合三役を除く組合員二七名について(イ)一二月二〇日より就労、(ロ)ロツクアウト中の賃金遡及払、(ハ)無線車五台、非無線車一二台の割当、などを含む和解が成立した。

(16) 一二月二〇日組合員二七名が就労しようとしたところ池辺俊彰に対し争議中に自動車のドアーを蹴つたことを理由に同人の就労を拒否した。その後大分地方裁判所のあつせんにより同人は一二月三一日から就労した。

また組合員に割当てた無線車五台中二台の無線機は使えないものであつた。

(17) 昭和四二年三月二四日当委員会のあつせんにより組合三役に対する就労拒否が解かれ争議は全面的に解決した。

三、手当について

(1) 会社は第二組合員牧和間、釘宮忠雄、田中健夫、泥谷英司の四名に対し昭和四一年八月頃から正規に計算された給料の外に毎月二、〇〇〇円を支給していた。

(2) 昭和四二年六月に前記四名の給料袋に記載されていた役員手当なるものが発覚し同年七月上旬第二組合の臨時大会で問題となり大会が紛糾し牧和間らの執行部は退陣した。同月中に副委員長三重野博ら六名は第二組合を脱退した。

(3) 同年七月以降同手当の支給は打ち切られた。

(4) 前記四名は組合の結成大会に参加せず当初から組合に加入しなかつた運転手中役付者を除いては組合に加入しなかつたのはこの四名のみである。

四、組合に加入しない約束について

会社は申立人組合結成以来昭和四二年一二月一九日まで一〇数名の新運転手を採用した。組合はこれらの新入運転手に組合参加を働きかけたが組合に加入した者はなく全員第二組合に加入した。

五、担当車の割当について

申立人組合が結成されるまでは担当車の割当は水揚高によるなど一応の基準により実施されていたが組合結成後は基準がなく第二組合員に対して殆んど全員に無線車を割当てているが申立人組合員のうち無線車を割当てられた者は半数以下である。

また古い車輛の大部分を申立人組合員に当てている。昭和四二年一二月一九日現在の組合別車輛の比較をみると、試雇期間中の者を除いて担当車を与えられていない者は申立人組合員三名のみである。また無線車と非無線車の比率は申立人組合員は七対七、第二組合員は一六対一であり、車輛の新旧の度合を新、中、旧の三ランクに分けるとその比率は申立人組合員では新二、中五、旧七であり第二組合員では新五、中一〇、旧二である。

六、会社は本事件の審査に際し答弁書を提出しただけで審問に出頭せず証拠も提出しない。

第二、判断

一、手当について

(1) 組合は本件手当について組合に加入せず第二組合結成の中核となつた者に支給したものでこれは第二組合の運営を支配し前記四名より申立人組合員を差別扱いしたもので労働組合法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為である旨主張し、会社は昭和四一年七月六日一部従業員が職場離脱をした際に会社に残留して就労したので功労の意味で支給した一時的な功労金であると答弁している。

以下これについて判断する。

(2) 会社が組合結成の中心人物の二度にわたる解雇通告、組合員或いは組合三役に対する長期間の乗務拒否及び担当車割当の差別等の行為並びに組合結成以来の組合に対する言動は前記認定事実二のとおりであり組合を著しく嫌悪し事毎に労使が対立していたことが認められる。

(3) ところで牧和間、釘宮忠雄、田中健夫、泥谷英司の四名が月額二、〇〇〇円の手当を支給されていたことについては争いがなく第二組合結成とともに牧和間が委員長に釘宮忠雄が書記長に就任したことは認定のとおりである。

しかしながら田中健夫、泥谷英司の両名は第二組合に加入したが役員ではなくまた第二組合副委員長となつた三重野博(元申立人組合員で脱退した者)は手当を支給されていないことから考察すると給料袋に「役員手当」と記載されていたとしてもそれを直ちに第二組合の役員手当と解するのは至当でない。

(4) 会社は本件手当を一時的な功労金と言うがかかる手当の支給には客観的妥当性がなければならない。会社はその根拠として従業員が早退、欠勤届を提出し組合結成大会に参加せず就業したことが会社に対する功労であつたと言う。なるほど組合結成当日運転手の多くが早退、欠勤したのでその限りでは会社に貢献したと言えなくもないがそれのみをもつて直ちに本件手当を支給する根拠としては、客観的妥当性に欠け、その支給額は毎月二、〇〇〇円であり支給開始が昭和四一年八月か、同年一〇月か明確でないが九ケ月乃至一一ケ月間にわたり継続され少くとも一人当り合計一八、〇〇〇円以上におよびその支給が第二組合の臨時大会で問題化した後打切られたことと、前記(2)の組合嫌悪の事実と考え合せると組合に加入しなかつた四名と組合とを差別する意図のもとに支給されたものと判断せざるをえない。

二、組合に加入しない約束について

組合は組合結成後十数名の運転手が入社したが組合に加入した者が一名もいないのはその採用にあたり会社が組合に加入しないと約束させたからだと主張する。しかしこれについては組合の疎明が十分でないのでその主張は採用し難い。

三、担当車の割当について

(1) 組合は通常与えられるべき無線車や新車が割当てられず、非無線車や廃車前の古車の大部分が申立人組合員に割当てられ、また担当車のない者もあると主張し、会社はそのような事実はなく、また事実上できないと答弁しているのでこの点について判断する。

(2) 証人一力政雄は「元組合員の清田、三原の両名も廃車寸前の車輛で修繕が多く水揚げが上らず結局退社していつた」と証言しており例外はあつても古い車輛は新車に較べて故障も多く客も好まないことは否定できないし、無線車は非無線車に比して能率を上げることは疑う余地がなくそれらのことが各人の成績にはね返えることは論をまたない。運転手にとつてその担当車は仕事の生命であり、その良否が直接水揚げに影響し運転手自身の生活問題であるから担当車の割当にあたつては公正妥当な基準を設け、その公平な運用をはかるべきである。

(3) タクシー業においては車輛の消耗度が高く運転手の移動も多いと思われるので担当車は恒久的なものでなく随時変ることが考えられる。従つて現在における割当は明確でないが認定した事実五のとおり無線車と非無線車、新旧車輛の割当において申立人組合員と第二組合員との間に公平を欠くことが認められる。またこの種差別は客観的な基準を設定し、これを公平に運用すれば、格別会社の意志如何によつてはできえないことではなく会社が組合を著しく嫌悪していたことと併せ考えると会社の担当車割当に対する行為は組合員と第二組合員とを差別する扱いと判断せざるをえない。

(4) 以上の次第であるから会社が牧和間ら四名に手当を支給したこと及び担当車の割当においてとつた行為はともに申立人組合員との差別扱いであり何れも労働組合法第七条第一号第三号に該当する不当労働行為である。尚組合は「陳謝文の掲示」を求めているが本件救済は主文のとおりで十分であると思われる。

よつて当委員会は労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

(別表)

氏名 一力政雄  後藤喜一

三重野末夫 福山輝男

松岡正博  笠木一一

三浦丈平  佐藤満男

亀井芳徳  堀寛

野中照生  後藤健二

宇野英敏  児玉清志

以上一四名

別表(一) 職場離脱表

年月日

人員

時間

41.7.13

組合員中

6名

13~17時

7.18

8名

9~12時

8.2

7名

18~21時

8.18

組合員

全員

18~終業

8.30

8.26

14~終業

9.7

18~終業

9.18

23~終業

9.19

9~12時

10.14

17.30~18時

別表(二) 配車表

所属

組合員(15)

第二組合員(11)

非組合員(16)

車別

無線車

非無線車

一年未満

佐藤満、野中、亀井、福山、

児玉、三重野博、宇野(7)

牧、広瀬、釘宮、祖田、泥谷、田中、大黒(7)

久下、白石、都(3)

後藤建、三浦、堀(3)

田緑(1)

二年未満

佐藤昇(1)

佐藤幸、西山(2)

松岡(1)

佐藤清、安定、谷口(3)

三年未満

三代(1)

伊藤敏、伊藤庄(2)

橋本、一力(2)

岡部、児玉、佐英、大橋、

乙津、増本、堤、後藤信、有松(9)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例